ヘリコバクターピロリ菌(ピロリ菌)とは
胃粘膜に感染すると慢性的な炎症を起こして、数多くの胃疾患を発症させる細菌です。ピロリ菌感染陽性で多い胃・十二指腸疾患には、胃・十二指腸の炎症・潰瘍や過形成性ポリープなどがあります。また、慢性胃炎が長期にわたって続くと萎縮性胃炎に進行して胃がん発症のリスクが上昇します。日本をはじめとした東アジアは胃がんの罹患率が高く、ピロリ菌感染陽性の割合も多い傾向があります。
ピロリ菌の感染経路
衛生状態が悪い地域では湧き水や井戸水を飲んで感染するケースが多く、上下水道が整備された先進国では感染率が低い傾向があります。ただし、日本では1970年代以前に生まれた人の感染率が今も高く、衛生環境が整っている地域に生まれ育った若い世代にも陽性になるケースがあります。これについては幼児期の口移しなどによって感染する可能性が指摘されています。そのため、50歳以上の方や、ご家族に胃がんや胃・十二指腸潰瘍になった方がいる場合、ピロリ菌に感染している可能性がある程度高いと言えます。 ピロリ菌に感染している場合、除菌治療によって菌を除去することが可能です。除菌に成功すると慢性的な炎症の再発が抑制できるため、炎症を進行させて胃がんリスクの高い萎縮性胃炎への進行を予防することができます。除菌治療により、これから生まれてくる次の世代への感染にもつながります。除菌治療は薬を1週間服用するだけですから、感染している可能性がある場合には、ご相談ください。
ピロリ菌が原因となる病気
ピロリ菌は強酸の環境下にある胃粘膜に感染し、アルカリ性のアンモニアを作り出すことで周囲を中和して生息を可能にしています。ピロリ菌は細胞を障害するVacAという毒素を分泌して胃粘膜に慢性的な炎症を起こし、それによって粘膜の防御機能が弱まり、修復機能も低下するため炎症が進行して悪化します。胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こす大きな原因のひとつであり、ピロリ菌によって細胞が傷ついて遺伝子変異を起こして胃がんを発生させると考えられています。ピロリ菌感染はそれ以外にも多くの胃・十二指腸の疾患の原因となっています。ピロリ菌感染によって発症リスクが上がる代表的な疾患は、萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんです。
萎縮性胃炎
ピロリ菌が分泌するVacAが胃粘膜細胞を障害して慢性胃炎を進行させることで、胃粘膜が薄くなって萎縮しています。萎縮性胃炎は胃がんリスクがとても高い状態です。萎縮は十二指腸に近い幽門周辺ではじまり、ゆっくりと全体に広がっていきます。ピロリ菌の除菌治療に成功すると慢性的な炎症が解消されて再発しにくくなるため、進行を止めることができます。萎縮した粘膜のデコボコした表面や不均一な色調などの特徴は、胃カメラ検査で確認できます。
胃・十二指腸潰瘍
炎症が続いて粘膜がただれなどの炎症症状を繰り返し起こし、粘膜の傷が深くなって筋層にまで届いて潰瘍ができています。強い痛みや大量出血による吐血・貧血・黒いタール便などを起こすことがあります。潰瘍からの出血がある場合には、胃カメラ検査時に止血処置をすることもできます。悪化して粘膜に穴が開いてしまうと緊急手術が必要になります。潰瘍は内服治療で状態を改善できますが、除菌治療によって再発を防ぐことをおすすめしています。
胃がん
ピロリ菌はがんタンパク質とされているCagAを胃の細胞に注入し、これが胃がん発生のきっかけになっている可能性が最近の研究によって示唆されています。ピロリ菌の持続感染によるこうした細胞障害に、塩分の過剰摂取、喫煙、飲酒習慣などの要因が重なって胃がんの発症に至ると考えられています。実際に胃がんの方のほとんどにピロリ菌感染が認められていますので、除菌治療を受けてピロリ菌を除去し、炎症の進行を抑えることで胃がんリスクを低下できるとされています。
胃がんの多くは、ひとつの細胞ががん化してはじまります。症状が出るほど進行するまでにはかなり長い時間がかかります。胃カメラ検査では症状のまだない早期に胃がんを発見できますが、それでも細胞のがん化から胃カメラ検査の発見までは10年程度かかるとされています。当院では早期がんを発見しやすくするために特殊光や拡大などの高機能を搭載した最新の内視鏡システムを導入し、熟練した専門医が検査を行っています。
胃がんは早期発見できれば内視鏡による治療が可能で、日常生活に支障なく完治が望める病気になってきています。進行がんになって大変な手術を受けなければならなくなる前に、ピロリ菌感染がわかったら除菌治療を受け、定期的に胃カメラ検査を受けることで悪化・進行させずに健康を保ちましょう。
ピロリ菌の検査
- 感染の有無を確かめる検査
血液や尿を採取して、抗体を調べる検査と、胃カメラ検査中に組織を採取して調べる検査に分けられます。胃カメラ検査によるものには、ウレアーゼ法、培養法、鏡検法があります。 - 除菌治療が成功したかどうかを確かめる検査
除菌治療は100%成功するものではないため、治療後に判定検査でピロリ菌の有無を確かめます。失敗した場合には薬剤を変更して2度目の除菌治療が可能であり、1回目2回目の除菌治療を行った場合の成功率は97~98%程度です。
尿素呼気試験
吐く息である呼気を採取して行う検査です。
この検査を受ける場合には、朝食を食べずにご来院いただく必要があります。
最初に、検査用の袋に呼気を吹き込み、その後検査薬を内服して20分程度してから、新しい袋に呼気を吹き込みます。
ピロリ菌除菌対象となる方
保険診療で除菌治療を受けるためには、下記の条件を満たす必要があります。
- 胃カメラの内視鏡検査で萎縮性胃炎(慢性胃炎)と診断された
- 胃十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病などがある
- 早期胃がんの内視鏡治療を受けた
人間ドックなどでピロリ菌陽性であることがわかっている場合も、胃カメラ検査を受けていただくことで除菌治療に保険診療が適用されます。また、1年以内に内視鏡検査を受けていて、慢性胃炎の診断を受けている場合は、それがわかる診断書などを提示いただけたら、当院で改めて胃カメラ検査を受けずに保険診療でピロリ菌除菌治療が受けられます。
自費診療の対象となる方
除菌治療は1回目・2回目の治療が保険適用されますが、3回目からは自費診療になります。
健康診断や人間ドックの採血・採尿による検査でピロリ菌感染陽性で、胃カメラ検査を受けたくない場合も自費診療となります。
保険診療で使用が認められたペニシリンやクラリスロマイシンにアレルギーがある場合、別の薬剤を使う必要があるため、自費診療となります。
除菌治療の流れ
1次除菌
クラリスロマイシン・アモキシシリンという2種類の抗生物質、そしてボノプラザン(胃酸分泌を抑制する消化性潰瘍治療薬)を1週間内服します。ボノプラザンは抗生物質の効果を高めることがわかっており、これを用いることで従来の除菌方法よりも高い除菌成功率を得られます。
1次除菌の成功判定
正確な結果を得るために、内服が終了してから2ヶ月以上経過した後に判定検査を行います。判定検査は、尿素呼気試験で行います。呼気を採取するだけの検査です。ここで除菌成功が確認できたら治療は終了です。
2次除菌
1次除菌が失敗した場合、2次除菌をご希望される場合に行います。薬剤をメトロニダゾールとアモキシシリンに変更して、同じように1週間内服します。
2次除菌の成功判定
内服が終了してから2ヶ月以上経過した後に判定検査を行う点も1次除菌と同様です。1次除菌と2次除菌を合わせた成功率は97~98%と報告されているため、ほとんどの方の除菌が成功します。
2次除菌に失敗した場合
抗生物質の組み合わせを変更して3次除菌をすることもできますが、保険適用されないため3次除菌以降は自費診療になります。5次除菌治療以降で成功するケースもあるため、検討されたい方はご相談ください。
戸塚ファミリークリニックのピロリ菌外来
戸塚駅から徒歩2分、戸塚ファミリークリニックでは消化器病学会専門医の資格を持つ医師によるピロリ菌の検査・除菌治療をおこなっています。
健康診断や人間ドックでピロリ菌の感染を指摘された、ご家族にピロリ菌感染した人がいる、他院で除菌治療に失敗した等、ピロリ菌に関するご相談や検査、治療ならお任せください。
当院では、苦痛を抑えて楽に受けられる胃カメラ検査をおこなっています。診療はネット予約が可能ですので、お気軽にご相談下さい。